| 〜 第４部 月に願いを… 〜 |
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第 26 話 |
邪魔者たち（３） |
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「フフ・・・なるほど。そういうことか・・・」 と、独りごちて笑っている。 「なに納得してんだよ」 イルシアは少し気味悪げに口を濁した。 「マリエ様は、黒い影を引き寄せる闇の力がある。だから私のような黒呪術などを使う者が占えば、マリエ様の居所を探すなど簡単な事だった・・・。だが、今は以前に比べれば、それはあまり当てにならない探知となってしまった」 「？」 何を言いたいのか分からず、イルシアは器用に片方の眉だけを上げて、呪術師を睨みつける。 ダンゼルは構わずに続ける。 「だから今回、お前達を探すのにこんなに時間がかかってしまったのだ。マリエ様の闇の力がほんの半年ほどで、こうも弱まるものだろうかと不思議に思っていたのだが・・・そうか。イルシア、お前のせいなのだ」 「俺のせい？」 なんだかよく分からないが、重大な責任を転嫁されたようで腑に落ちない。 「お前がマリエ様のそばにいるだけで、闇の力が弱まるんだよ・・・そう、思い出した。アサエル様がおっしゃっていた。マリエ様が唯一、受け入れる男の名を。『イルシア』と」 「きさま・・・やっぱり、アサエルの手下だったんだな・・・」 忌まわしき『アサエル』という言葉に反応してうめくイルシアなど無視して、ダンゼルは続ける。 「マリエ様が人間の男に愛されれば、闇の力も生け贄の資質もなくす。・・・だが幸運な事に、マリエ様は完全にお前のものになってるわけではなさそうだからな。打つ手はまだあるということだ」 「俺のもの・・・ね」 やけに直接的に言ってくれる、とイルシアは半ば呆れていた。そして、お前が来なければ今頃、彼女の闇の力とやらを消して、生け贄の資質もなくさせていた筈だったんだ、と胸中で毒づく。 それを察してか、ダンゼルはイルシアを指差した。 「マリエ様の心身は清らかでなければならない。それを穢そうとするお前は、我々の最も邪魔な人間なのだよ！」 「穢すだと？」 まるで汚染物のような扱いにされたイルシアは完全に頭にきていた。 携えていた剣をスラリと引き抜く。 「イルシアさん・・・」 マリエは、激情に走っているイルシアを不安げに見上げた。 「巫女さんはコーラルのもとに行くんだ」 視線はダンゼルを見据えたまま、後ろのマリエに告げた。 出番はもうなくなったとでもう言うように、傍観を決め込んで少し離れたところにいる魔女を確認してから、マリエは渋々だがコーラルの所に駆け寄っていく。 それと同時にイルシアも、ダンゼルに向かって駆け出した。 ものすごい勢いでダンゼルの真正面に走り込む。走りながら剣を横に構え直し、至近距離に来た瞬間、それを薙ぎ払う。 しかし胴体を切り裂く感触はなく、代わりに頭の奥まで響く耳障りな音が鳴った。 ダンゼルは魔法で防御壁を作り出して待ち構えていたらしい。その音は、透明な壁のせいで剣が弾かれた音だった。 「くっ・・・」 衝突の衝撃が腕に伝わってくる。 イルシアは体中に痺れが走り、体勢を崩す。だがダンゼルの防御壁が泡のように消えたのに気付き、すぐさま柄を握り直して、切っ先をダンゼルに向かって突いた。 「・・・ッ！」 声にならない悲鳴をダンゼルは上げた。 横っ腹の衣服が引き破られ、その下から血飛沫が飛ぶ。 咄嗟に傷口を抑え、ヨロヨロと後ろによろめくと、尻を地面に付いた。 「あんた、魔術の方はあんまり得意じゃないらしいな。防御魔法が短時間しか効いてない」 ダンゼルの様子を窺いながらイルシアが呟く。 血は飛んだが、そう深手は負っていない筈だ。かすり傷程度だろう。 それでも呪術師には多少衝撃的だったのか、青褪めているようだった。 「・・・私は、占いと呪術が専門だからな・・・」 「占いはともかく、呪術の方も魔術と同様、せこい術なんじゃないか。あんたがあの巫女さんに掛けた呪い、道中で少し解けたんだぜ？」 実際は、マリエが呪いに掛かりにくい体質だというのが原因かもしれないのだが、とりあえずはダンゼルの実力がないということにしておいた。 ダンゼル自身も決めかねているのか、否定はしなかった。 「フン・・・。確かに、私は未熟かもしれん。アサエル様とバイブ様に仕えていた時は、力がない故に組織の末端として働いていたしな。だがな、力ない者にはない者なりの戦い方がある・・・お前を私の近くまでおびき寄せるには、これくらいの怪我など覚悟していたさ・・・」 「・・・？」 「呪術は近距離でないと有効しないのだ。・・・この距離なら、お前を呪い殺す事ができる！！」 そう叫びながら、宝玉が連なっている首飾りを引きちぎり、イルシアの足元に投げつけた。紐から宝玉が次々と外れ、勢いよく転がる。 「その者に永遠の苦しみを！」 両手をイルシアに向かって広げ、叫び放つ。 するとそれぞれの宝玉から一筋の光が放たれ、イルシアの体に巻きついてきた。 一瞬、イルシアの体は硬直した。 全神経に激痛を通り越したような混乱の渦が押し寄せてきた。 「うわあぁぁぁっ！う、つぅぅッ！」 突然、イルシアは頭を両手で抑え、もがき苦しみ始めた。 「いかん。あれは精神攻撃の呪術だ。精神がぼろぼろになり、廃人となってしまうぞ」 細い目を見開き、コーラルが叫んだ。 「イ、イルシアさんッ！！！」 わき目も振らず、イルシアのもとへ駆け出すマリエ。 「危険だ、戻りなさい！」 コーラルの呼び止める声も聞きいれず、マリエは無我夢中で走った。 「近付かせるか！」 マリエがイルシアのもとにたどり着くまでの距離はかなりあるので、ダンゼルにはそれを妨害できる機会はありすぎた。だからコーラルの魔物を追い払った時のように、火炎の魔法をマリエ・・・ではなく、地面に倒れもがいているイルシアに投げつけた。 守り人さえ、ましてや影天使などこの世からいなくなれば、マリエを生け贄として束縛できる可能性がぐんと高くなる。 特別な力が付与されているマリエに手が出せないのならば、彼女を守ろうとする邪魔者達を排除していけばいいのだ。 |
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