| 〜 第４部 月に願いを… 〜 |
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第 24 話 |
あらがえない運命（３） |
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コーラルは暖炉の前で椅子に腰掛けていて、イルシアが入室してきても身じろぎひとつしなかったが、うたた寝をしているわけでもなさそうだったので、イルシアは彼女に近付いた。 魔女は振り向きもせず、「どうした？眠れぬのか？」と問うた。 「ああ。あなたこそ」 「少しでも火力が強くなると、焦げてしまって使い物にならなくなるのでな。こうして時々、かき混ぜなければならないのだ」 暖炉の火の上に小さな鍋がぶら下がっていて、その中にはホルビイの葉が入っていた。 原形はもう保ってはおらず、どろっとしているが、色は元の時よりも鮮やかな深緑だ。明日、マリエがこんなものを飲むのかと内心驚きつつも気の毒になぁと思うイルシアはすぐ、炎の影に揺れている魔女に視線を移した。 「・・・」 「ん？なんだい」 思いつめた彼の視線に気付いたコーラルは、かき混ぜていた手を休めた。 「何か聞きたそうだね」 「・・・」 コーラルの背後にある椅子に腰を下ろして、魔女の背中に呟いた。 「なぜ、あなたは俺達・・・と言うか、あなたに助力を求めてくる人間達に手を貸してくれるんだ？」 人間を助けたところで、この魔女には何の利点もないのにだ。 それに、このような異世界に独りで住んでいるからには理由がある筈で、それはイルシアの察するところ、その偉大な力のせいで迫害を受けたからだと考えている。 直接、彼女から聞いたわけではないが、半魔人ということもあって、人間から疎まれていたに違いないのだ。それなのにコーラルは人間に手助けをする・・・。 魔女が小さく笑った。 「？」 イルシアは訝しがりながら白髪の老女を見つめた。 「いやいや、悪いね。突然、笑って。昔、同じ事を訊ねられたことがあったものでね」 背を向けたまま魔女は教えてくれた。 「同じ・・・？」 「ああ、まるっきり同じ。人間達から迫害を受けたのに、なぜその人間達を助けるんだとね」 やはり。 彼女は迫害を受けて、この森――――結界を張って、孤独を選んだ・・・。 「その男に言ってやったよ。これは運命なんだとね。私を蔑む者もいれば、私の力を必要とする者もいる。半魔人として生まれた、私の宿命だと」 「・・・。俺も、どちらかと言うと、運命とやらに振り回された人間だけど・・・」 そう。マリエと出会ってからというもの。 イルシアは続ける。 「あなたの場合、運命という言葉で片付けられるようなものなのか？俺だったら願い下げた。自分を迫害した奴らの尻拭いなんて」 「最初はそう思っていたよ。だからこそ、私は魔界の扉を開いて、魔界へ行こうと考えていた事もある。あの世界ならきっと私を受け入れてくれるだろうから。だが、出来なかった」 「出来なかった？なぜ？」 「私は知っていたから。人間は全てにおいて、愚かではないということをね」 「・・・人間を、完全に嫌いになれなかった・・・ってワケか？」 「ま、そういうことさ」 イルシアはテーブルに片肘をついた。 「・・・人が良すぎる」 イルシアが知っている魔物使い達は、どうしてこうも慈悲深く寛容であるのか。 恐怖の対象とされる彼女達よりもよっぽど、ただの人間である自分達の方が陰険で恐ろしい生き物なのかもしれないと思った。 「で？そいつ・・・俺と同じ事を訊ねたって奴は、納得したのか？それで」 「どうだろうね。きっと、あんたと同じ思いだったんじゃないかな。運命で片付けてしまうことに、悲しんでくれていたと思うよ」 俺は別に悲しんでなんかないぞ、という言葉は飲み込んだ。 「本当に、いい人間だったよ。イルシアより若い男でね。そう言えば、私が魔物を飼い慣らしている事に憤慨していた・・・」 コーラルにとっては、そう遠い思い出ではないらしい。 しかしその男は既に、この世にはいないのだろう。 「イルシアは、そういう口ではなさそうだな」 「え？」 突然、自分に話を振ってきたので目を丸くする。 「私が森で魔物を飼い慣らしてる事に、憤らないかってことさ」 「あ・・・ああ、そういうことか。そーだな・・・」 イルシアは暫く考えて言葉を選んだ。 「別に、憤りとかは感じない。魔物使いが魔物を操る事は、当然だと思ってる人間だから、俺。それに俺の近くには魔物使いがいるから、免疫がついてるのかもしれないな」 と他の人が聞けば冗談にしか聞こえないのかもしれないが、イルシアにしてみれば冗談のつもりはない。本気だ。 「それを聞いて安心したよ。マリエは・・・あの子には、ちゃんと理解してくれる人間がそばにいるんだってね」 そう呟きながら再びさじを手にとり、暖炉の炎を見やる。 その眼差しは、同じ魔物使いであるマリエへの憧憬ではなく、安堵したような、ほっとしたようなものだった。 「同じ魔物使いとしては、やっぱり気になるのか？あいつの事」 「そりゃあね。私みたいな運命は、私だけで充分だ」 それほど苦々しく呟いたわけではないのだが、彼女の言葉の端々には重みを感じる・・・。 「ところでイルシア」 「ん？」 体は暖炉に向けたまま、首だけを横に向かせてコーラルは振り向く。 「あんたとマリエは、どういう関係なのだ？」 |
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