| 〜 第４部 月に願いを… 〜 |
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第 23 話 |
魔女の行方（６） |
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イルシアの顔が急速に青褪める。 「この状況を把握できてるってことは、そいつ、この近くにいるのか！？」 マリエを引き寄せ、短剣を構えた。 「・・・その通り・・・」 どこからともなく聞こえたその声に、イルシアとマリエは顔を上げる。 強風が森を抜けた。 木の葉が舞い上がり、その景色の向こうに人影が見えた。 「誰だ！？」 「私は、この森の住人・・・」 イルシア達とその人影の間で踊っていた木の葉がなくなると、その姿ははっきり見えた。 イルシアは目を凝らして、その容姿を窺った。 老女だった。 しかし老いているとはいえ背筋がまっすぐで、凛とした顔つきからは、何か強い意志のようなものが感じられる。 そして赤い宝石が埋め込んである杖を握っていて、見るからに魔法使いという雰囲気を漂わせている女性だった。 「もしかしてあなたが・・・魔女・・・なのか？みんなが伝説だと言っている・・・」 警戒しつつ、イルシアは疑惑の眼差しで確認する。 「魔女・・・ねえ。そう言われても仕方あるまいな。それに私の存在は既に伝説となっているのもね。確か最後に外界の人間に会ったのは、もう三百年くらい前のことだから」 「三百年・・・？」 ということは、彼女はそれ以上の時間を生きているということになる。 信じられない面持ちの二人に、魔女はふっと笑った。 「私にとっては、ほんの二十五年位前のことなんだがね」 それがどういう意味なのか二人には理解できなかったのだが、魔女はそんなことは構わないとでもいうように今度はマリエを見据えていた。 「そこの小さい娘、名は？」 「マリエ＝カウンソンと申します・・・」 イルシアにくっついたまま、不安げに呟く。 「マリエ。あんたは本当に魔物使いなんだね。ユーリーを召喚された時は信じられなかったが、虎角獣を呼び出して確信した。驚きだね。この時代にまだ、魔物使いがいるなんて・・・」 「こっちだって驚いてる。こいつの他にもいたなんてな」 強い口調でイルシアが言った。 彼は、この魔女に対して警戒心が解けない。その証拠に、抜き身の剣を握ったままである。 「魔物使いは魔人でなければなれない。ということは、あなたはこの世界にはもういない筈の魔人なのか・・・？」 否定するわけがないと分かっていても、質問せずにはいられない。本人の口から聞くまでは・・・。 案の定、魔女は頷いた。 「私はきっと、この世界で一番、魔人の血を濃く引く者だろう。なぜなら私は、魔人と人間の混血だからね」 「・・・！」 イルシアもマリエも絶句した。 半分は魔人の血が流れているのだ。先祖返りのマリエなんかより、よっぽど純血である。 「バ、バカな！混血ならば、もうとっくの昔に死んでるはずだ。だって、魔人がこの人間界に押し寄せてきたのは、俺達が『忘れられた時代』と呼んでいる時代より、更に三百年も前の事。ってことは、軽く六百年以上は生きているって事に・・・！」 「フフフ。そういうことになるね。だが、その疑問は私の屋敷にくれば納得できるだろうよ」 「え・・・」 「私に会いたくて来たのだろう？ついておいで。我が家へ案内するよ」 当然、二人は躊躇した。 なんと言っても、相手は魔人の混血だ。信頼しろ、というほうが無理な話だった。 「安心おし。何もどうこうしようってわけじゃないさ」 「・・・」 「そんなに心配かい、青年？マリエが生け贄にされやしないかって」 そう問われ、イルシアははっとした。 「悪いね。この森は私の庭のようなものでね。あんた達の行動や会話はすべて監視させてもらった」 「・・・。・・・直系であるあなたが、生け贄を使って魔界の扉を開こうなんてこと、わけないよな・・・」 イルシアは鋭い視線を魔女に射抜いた。 「わけないだろうね。実際、私は扉を開こうと考えた事があるしね」 「！」 「さあ、どうするね？決めるのは、あんた達だ。私はどちらでもいいんだよ」 そう言って、魔女は背中を向けてから杖を前に突き出した。 すると、驚いたことに魔女の前方に光の空間が浮かび上がってきた。 「私の家は、この結果の向こうにある」 魔女が先の見えない空間に足を踏み入れると、その姿は光に包まれて見えなくなってしまった。 マリエがイルシアを見上げる。 「どうしますか？」 「どうするって・・・」 イルシアは決めかねていた。 本当にあの魔女を信じていいものかどうか・・・。それにあの光の向こうは魔界に似たような世界なのかもしれないし、彼女の仲間がいるのかもしれない。 「巫女さんはどう思う」 「そうですね・・・。悪い人には見えませんわ。魔人の直系と言っても、邪悪なものも感じませんし」 そうだ。 魔物使い・・・と言っても、悪人だとは限らない。マリエが良い例ではないか。 それに街の人達の間で言い伝わっている魔女は、窮地を救ってくれるという人物だった。 「『魔物の森』と呼ばれていますけど、トロンベスタの人達にとっては大切な森。そんな森を守っている方ですもの。きっと、いい人ですよ」 にっこり言うマリエのその言葉で、イルシアの心は決まった。 「行ってみよう」 マリエを抱きかかえ、光の渦の中へと歩んだ。 第２３話 完 |
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