| ～ 第４部 月に願いを… ～ |
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第 22 話 |
背中にしょって（４） |
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見つめ合う二人は、はたから見れば本当は恋人同士に見えるはずだろう。 だがマリエが子供の姿をしているため、実際はそうではない。 ムードと関係なく突然、「ねえねえ、泣いてるの？その子」と横から幼い声が聞こえてきたりする。 「えっ！？」 二人とも慌てて前を見ると、十歳くらい少年がこちらを見て立っていた。 「お兄ちゃんがいじめたの？」 と、疑いの視線をイルシアに送ってきた。どうやらこの村の子供らしい。 「ち、違うよ。そのー･･･あ、そうそう！おなかが痛いらしいんだ」 「ふーん・・・」 明らかに信用していない返事だ。 「と、ところで君はここへ何しに？あ、もしかして、君の遊び場だった？ごめん、俺達もう行くから・・・」 マリエを促してその場を立ち去ろうとしたが、少年は首を横に振った。 「いいよ、気にしなくて。僕、たまに来るだけだから。お母さんに見つかると、怒られるんだけどね」 「怒られる？」 マリエが繰り返した。 「うん。ここは昔、悪魔が住んでたんだって。だから近寄っちゃダメだってさ」 無邪気に言う分、この村でのシーズ家に対する迫害の事実を思い知らされた気がして、イルシア達はなんの相槌も打てずにいた。 「今でも悪魔が出るぞって言うから、悪魔ってどんなのか見たくて、時々様子を見に来るんだ」 「それで俺達をその悪魔と勘違いしたのか？」 「えへへ、ちょっとね」 怖いもの見たさの少年にイルシアは呆れた。 「坊主、安心しな。ここには、そんな怖いものなんてありゃしないし、いやしない。それは全部、迷信なんだよ」 「迷信？でも、村中の人が悪魔はホントだって言ってるよ。それにねー、村の人だけじゃないよ。僕、見たんだ。ずっと前に、怪しい男の人が立ってたのを。その人にね、『ここにアサエル様が現れなかったか？』って聞かれたんだ。きっとそのアサエルっていうのが、悪魔の正体だよ！」 イルシアはその話を聞いて、瞬時に心臓がドクンと波打ったのを感じた。全身の血が逆流しそうなほどに。 （怪しい男？アサエルを捜していた？） まさか。 「・・・それって、いつのことだか覚えてるか？」 「うーん、あんまり覚えてないけど随分前だよ。半年以上前」 「どんな男だった？」 どうしてそんな事を聞くんですか、と訊ねようとしたマリエの先を越して、少年が「なんでそんなこと聞くの？」と不思議そうに言った。 「俺の知り合いじゃないかなーって思ってね。そうだな・・・着ていた服とか雰囲気とかでもいいんだ、覚えてないかな」 「なんか暗い感じの人。痩せてて、破れたローブを着てたよ」 「ずばり、魔術師みたいな感じ、か？」 「うんうん、そうそう。ちょっと不気味でさー、悪魔の使いって感じ」 「・・・」 難しい面持ちをしているイルシアをマリエは覗いた。 「イルシアさん？」 「なあ、巫女さん。この子の言う人間で思い当たる人物いないか？たとえば、あんたに呪いを掛けたって言う、あの呪術師とかさ・・・」 「え？ああ、そう言われてみれば・・・。まさかイルシアさん、同じ人だと？」 イルシアは頷いた。 「たぶん、ここに来た男は呪術師ダンゼルだ」 あくまで推理にしかすぎないが、イルシアにはそうだという自信があった。 勘というか、自分の中で確信のようなものを感じる。 ダンゼルが過去にこの村へ来た。恐らく、マリエに呪いをかける前に。 ただそれだけの事なのだが、イルシアとしてはいてもたってもいられなくなるほど、この村から離れたい気分になった。今まで、彼に尾行されている感じはなかったのだが突然、監視されているような気がしてきたのだ。 イルシアは早速、少年に別れを告げ、マリエを引っ張ってネルリルを出た。 |
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