| 〜 第３部 悲しみの果て 〜 |
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第 21 話 |
嘘と想いとさよなら（３） |
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「ファナさーん！こちらで、一緒に休憩しませんか〜？」 マリエが小さな手を振りながら叫んでいる。 本当は気が進まなかったが、拒むとまたイルシアに怪しまれそうだったのでファナは頷いてしまった。 仕方なく二人のそばに行ったが話す言葉が浮かばず、うららかな空とは打って変わって、張り詰めた緊迫感が生まれていた。 「・・・あ、あの」 よそよそしさを悟られたくなくて思い切って話し掛けてきたファナに、イルシアとマリエは注目した。 一瞬、「う・・・」とたじろぐファナ。 「なんですか？」 マリエが優しく促した。 「あの、その・・・。あなた方の父上は、すごく偉い方なのでしょうね」 その即席の質問にイルシアはそうだ、と頷こうとしたが、マリエの方が素早く「そうでもないですよ」と答えた。 「お前な・・・」 イルシアは呆れる。 レイランの次期宰相と言われ、王から最も強い信頼を得ているエラマのどこが偉くないと言うのか。 「若い頃は、冒険ばかりしていたって言っております。今の地位は成り行きだって、常に申してますもの」 「でも、レイラン国王はカウンソン家と繋がりを持ちたがっているそうではありませんか。その証拠に、王子の后候補としてマリエさんを国王が一押ししてるとか」 「それについては、わたくしも困ってるんですの」 頬に手を当て、ふうっと溜め息をついた。 「そうですよね。いくら側室とはいえ、三十近い王子様の所にまだ十歳のあなたが嫁ぐなんて・・・」 マリエはきょとんとして、イルシアの方を向いた。 「あのお話は、側室・・・なんですの？」 「俺に聞くな。・・・正妃に決まってんだろ」 「ええッ！？」 と驚いたのはもちろん、ファナである。 「だってマリエさんは、まだ十歳なのに！？」 政略結婚のためにまだ幼い娘を側室に差し出すという話は聞いた事があるが、正室としてなど聞いた事がない。 目を白黒させているファナを見てイルシアは、はあーっと大きな溜め息を吐いた。 あまり公言しないようにと言われていたが、この際、本当の事をファナに教えた方がいいようだ。ファナに知られても別に何の支障もないし、それに騙したまま彼女と別れてしまうのは心残りになりそうな気がした。 「ファナ。実はさ、本当のこと言うとこいつ、十歳なんかじゃなくて十九なんだ」 「・・・え？」 イルシアの言っている意味がわからないファナは、眉を潜めている。 「今はこんな姿をしているけど、本当は立派な大人なんだよ。っつーか、大人と言っても子供っぽいけどな」 「ひどい」 マリエは顔を真っ赤にして、頬を膨らませている。 「ど、どういうこと！？どう見ても子供にしか・・・」 ファナは信じられない面持ちで訊ねた。 「呪術師に呪いをかけられて、こんな姿になっちゃってさ。たぶん、后にさせないために誰かが仕向けたんだろうな。こいつが后になることを快く思ってない奴がいるらしいんだ」 その誰か・・・というのは、エラマに対して妬みを抱いているノーガスだと見当はついているが、ここでは伏せておく。 「その呪いを解けるかもしれないっていう人物がファリア大陸にいるってんで、こうして旅をするハメになったってわけ」 「そう・・・だったんだ・・・」 ファナはまじまじとマリエを眺めた。 子供にしては相応しくないこれまでの言動も、これで納得いく。 「でも、どうしてその事を私に教えてくれるの？本当は、誰にも言っちゃいけない事だったんじゃない？だって、リリアナ姫やカイル王子から、あなた達の旅の目的を追求しないようにと命令されていたもの」 「俺達も、レイラン王に無闇に他言するなって言われてたけどさ」 「じゃあ、どうして・・・」 「あんたになら言ってもいいと思ったから。信頼できるから・・・かな」 そうだよな、とマリエに同意を求めるイルシア。 マリエは嬉しそうに、こくんと頷いた。 「こーゆーの、仲間って言うんですのよね！」 「仲間・・・？」 ファナはぽかんと口を開け、呆然としている。 「危険を潜り抜けて、一緒に戦った仲ですもの。わたくし達は仲間ですわ」 「どうしてお前は、そう臭い台詞ばっかり言えるんだ？」 鳥肌が立つぜ、とイルシアは身を震わす振りをする。 「臭くありませんわ！」 「臭い」 言い返してイルシアは自分の鼻をつまむ。ムッとするマリエ。 「臭くないです！」 言い合っているそんな二人の横で、ファナは膝を抱えて黙り込んでいた。 「・・・」 それに気付いたマリエが「ファナさん？」と声をかけた。 ファナは慌てて顔を上げ、にっこり笑う。 「あ、いえ、なんでもないです。では、そろそろ出発しましょうか」 「え、あ、はい。そうですねぇ」 「私、準備してきます」 小走りに馬の元へ向かいながらファナは「信頼できる仲間・・・か」と、複雑な気持ちと一緒に独りごちた。 一方マリエはそのファナを見送りながら、こっそりとイルシアの名を呼んだ。 「なんだ？」 「わたくし達が兄妹じゃないってことは、教えて差し上げないんですの？」 「うーん。そればっかりはな・・・」 なにせ、その事はカイルでさえ知らないことなのだ。 それにファナは、イルシアとマリエが一緒に同じベッドで眠っていた事を知っている。 血の繋がっていない男と女が床を共にしていたなど、あまりにも不自然すぎる。 あらぬ想像をされては困るのだ。 「十九の妹と一緒に寝てたってーのも、充分、不自然だが・・・」 きっと、後からファナに変人扱いされる・・・と、イルシアは頭を抱えた。 |
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