| 〜 第３部 悲しみの果て 〜 |
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第 21 話 |
嘘と想いとさよなら（２） |
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「巫女様。早く元の姿に戻れるよう、我々は願っていますよ」 「ありがとうございます」 「そうだ。あなたに報告しておかなければならないな」 「なんでしょう？」 マリエは小首を傾げた。 「リリアナと、これからは向き合っていこうと思ってね」 「向き合うだなんて。なんだか、喧嘩するみたい」 うっすらと頬を染め、リリアナがそう呟いた。 「そうか？」 表現が的確ではなかったかな・・・と、カイルは困ったように眉を下げた。 マリエは頷き、「向き合うべきですわ」と微笑んだ。 「ルーエルがいなくなってから、こんな事を言うのは虫が良すぎると分かっているんだが・・・。今回の事で、人は選べない運命をそれぞれ抱えて生まれたんだと知った。それをどう変えていくのかは、自分自身の力だ。しかし私は自分の運命を変えようともせず、王族に生まれたのがただ嫌だと思うだけでリリアナと向き合わず、ルーエルに逃げていただけだった・・・」 それは結局、なんの解決にもならず、リリアナを傷つけ、ルーエルを失っただけだった。 悲痛な面持ちをしているカイルのそばにリリアナが寄り、彼の袖をそっと握る。 気にしないでと、瞳が訴えていた。 「わたくしも我がままでした。カイルに夫婦として、こうして欲しいとか、ああして欲しいとか要求ばかりしていたのです。それが重荷になるとも知らずに。これからはカイルに求められ、その上で自らが求めるように務めますわ」 そんな二人を見て、マリエもイルシアもほっとしていた。 リリアナのことを心配していたレイラン王に良い報告ができる。きっと、国王も安堵される事だろう。 「仲良くなられて、本当に良かったです。お二人のこれからの長い人生、オーディダも祝福して下さることでしょう」 マリエは巫女らしく、そう祈りを捧げた。 「ありがとう」 二人の顔は晴れ晴れとしていた。 まるで祝言を挙げたばかりの、初々しさを感じるように。幸せそうだった。 自分もいつかは・・・などと思ったイルシアは、慌てて首を振った。 「最近、なんかおかしいぞ、俺・・・」 と内心思いつつ、やっぱり相手はあいつなんだろうか・・・とマリエを眺めていた。 そのすぐ後、ネクスが衛兵と共に、イルシアらが乗る馬を二頭連れて来てくれた。 「では、カイル王子、リリアナ姫。そろそろ私達は出発いたします」 「うむ。気をつけてな」 「いってらっしゃい」 イルシアはファナの方を向いて、馬に乗るよう指示した。 ファナは頷いて馬にまたがる。残りの一頭にマリエを乗せ、その後ろにイルシアが乗る。 「おお、そうだ。もう一つ、言っておかなければならないことがあったぞ」 カイルがぽん、と拳を手のひらの上で叩いた。 そして馬上のマリエを見上げる。 「ルーエルの件だが・・・」 「サーフェイ像は、渡して頂けましたか？」 カイルは力強く頷いた。 「そうですか。無理な事、頼んで申し訳ありませんでした。ありがとうございました」 ぺこりと頭を下げるマリエ。 「彼女、あの像を見て泣いていたよ」 「泣いて・・・？」 「ああ。もう二度と会えないと思ってた、と言っていた。口にはしなかったが、嬉しかったんだと思う・・・」 取り調べでは一言も喋る事のなかったルーエル。 死ぬ覚悟で火薬に火をつけたつもりだったのに、自分は生きていた。 そのショックと、既に生きる意味を失った彼女は、カイルから見ても生きる屍だった。 しかしマリエに頼まれ、金の像をルーエルに渡した途端、彼女の目から涙が零れ出した。その時、やっと彼女の魂が戻ってきたのだとカイルは確信したのだった。 「ルーエルからの伝言で、お礼を言っておいてくれと。巫女様に」 「はい！しっかり聞きましたわ！」 想いがルーエルに届いて、マリエは嬉しく思った。 「良かったな」 頭の上からイルシアがそう声をかけてくれたので、マリエは満面の笑みでそっと頷いた。
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