| ～ 第３部 悲しみの果て ～ |
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第 21 話 |
嘘と想いとさよなら（１） |
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出航の日が決まると、毎日が慌ただしかった。 長い航海の間には食料が大量に必要になってくるし、諸々の生活用品もいる。イルシアはそれらの調達に駆け回ったり、打ち合わせを重ねたりしていた。 「カイル王子が、少し休んだらどうだっておっしゃってました」 長椅子に座って納品書やらの書類をチェックしているイルシアを、心配そうにマリエは眺めて言った。彼女から見てもイルシアは働き過ぎのような気がしてならない。 イルシアは書類に視線を落としたまま、 「ヴァースト様のほうで全部準備してくれるって言われたけどさ、そうそう甘えてられないだろ」 と言った。 「今回の船出がいくら人さらい組織を追い詰めた褒美でも、のうのうと傍観してられないからな」 「イルシアさんて、働き者ですわね～」 「そりゃそうさ。今、こうしている間でも俺はずーっと仕事中なんだからな」 「？」 「この国じゃ、俺は身分あるカウンソン家の御子息ってことになってるけど、本当はあんたの護衛なんだぜ？そしてファリア大陸に連れて行って、呪いを解いてもらうのが俺の今回の仕事。カイル王子は俺を巫女さんの本物の兄貴だって思ってるから労わりの言葉をかけて下さるが、月影族の俺は休んでなんていられないの」 じっとなどしていられない。 月影として与えられた任務をやり遂げなければらないのだ。 「それじゃあイルシアさんは、朝も昼も夜も丸一日中、わたくしを守ってくださってるということですのね！」 嬉しそうに言うものだからイルシアの心の中で小さな愛しさが生まれるが、イルシアは慌てて「当たり前だろ、任務なんだから」と冷たく突き放してしまう。当然、マリエは少々拗ねる。 「わたくしを守って下さるのは任務だから・・・という理由だけですの？」 「・・・あのさ、そういう話はまた今度な」 「今度っていつです？」 「お前の呪いが解けてから」 イルシアは素っ気無く、再び書類に目を落とした。 明らかにマリエから不機嫌オーラが漂い流れてくるのを感じた。彼女は、今この場でイルシアから何らかの期待ある言葉を聞きたかったのだろう。 しかし、イルシアとしてはこれ以上拍車をかけないでくれと願うばかりだった。 先日、彼女にキスをしてしまったばかりだ。今度は何をしでかすか分からない。 イルシアは早々と話題を変えることにした。 「そう言えばさ、ここから港町ザイドまで、ファナが案内してくれるってヴァースト様から聞いたんだが・・・彼女、ここに来たか？」 マリエは首を横に振った。 「最近、お顔を拝見しませんね」 「うん・・・」 イルシアが不意に顔をしかめたので、マリエは「どうかしました？」と訊ねた。 「なんか、ファナに避けられてるような気がするんだよな・・・」 「避けられて？」 「昨日、廊下でファナを見掛けたんだけど、俺を見るなりどっかに行っちゃってさ」 「イルシアさんてば、ファナさんに何かしたんですか？」 眉間に皺を寄せて疑惑な視線を送ってくるマリエに、イルシアはむっとした。 「何かって、なんだよッ」 「悪口を言ったとか、傷つけるような事をしたとかです」 「言ってない！してない！」 マリエに言うんじゃなかったと後悔しながら、クッションに思い切り頭を乗せ、イルシアは長椅子いっぱいに横たわった。 「怒らなくたっていいじゃないですか」 「あんたね、その疑う性格、直したほーがいいぜ！絶対嫌われるぞ」 「イルシアさんに嫌われなければ、わたくしは構いません」 「・・・」 無垢なその顔で言われると、もう何も言い返せなくなる。 「ったく・・・」 それにしてもファナの事は本当に身に覚えがないので気にかかって仕方なく、彼女に直接聞いてみたかったのだが、ザイドに出発する当日までファナに会う事はなかった。
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