| 〜 第３部 悲しみの果て 〜 |
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第 15 話 |
どうにもならない（２） |
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「・・・そうか。そうだよな、信じてくれるわけがない」 イルシアはなんだかおかしくて、苦笑した。 こんな時に笑っている彼を不謹慎に思いつつ、「そうだ。猫が『この像はルーエルの屋敷から取ってきた』と言っている・・・なんてこと、誰が信じるものか」とファナは口を尖らせた。 「そりゃそうだ」 しかも十歳の少女の証言など、誰が聞いても戯言としか扱ってくれないだろう。それに、動物の言っている事が理解できるなどもってのほかで、はっきり言って、マリエの証言は信頼性がない。 けれど、長い事マリエと接しているイルシアは、彼女の不思議な能力に慣れてしまっていたので、なんとも思っていなかった。マリエに出会う前の自分なら、そう、ファナのように絶対に疑っていた筈だ。 それが今ではまったく疑いもしなくなった。こんな自分の中で、マリエという存在が比重を占めてきている事をふと実感したりもした。 「でもさ、ファナはあのデカ猫が像を持ってきたって言うマリエのこと、疑いもしなかったよな、あの時。やっぱり、あいつがオーディダの巫女だからか？」 「別にそういうわけじゃないけど。・・・あんたが妹の言ってる事、当たり前のように信じてたから・・・私もそうしただけだ」 「え・・・」 照れくさそうにそっぽを向くファナに、イルシアは目を丸くした。 彼女の言ってる事はつまり、イルシアを信じているということになる。 そう言えば、マリエが言っていた言葉を思い出した。 ファナはイルシアを信頼していると。それは本当だった。 「・・・ありがとう、ファナ。信じてくれて」 「れ、礼なんていらない！誰を信じるか信じないかは、人それぞれなんだからっ」 「うん、そうだな」 彼女の言う通りだ。 イルシア自身、マリエと出会ったばかりの頃に、誰を信じればよいかわからなくて苦しんだ事がある。結局、信じがたいマリエを信じてしまったのだが。 一方のファナは狼狽を隠そうと、イルシアに違う話題をふった。 「そ、それよりイルシア！ここを脱出する方法を考えよう」 「あ？ああ」 その時、地下牢へと続く階段を下りてくる足音が聞こえた。 「誰かが下りて来る・・・」 イルシアは耳を澄ました。足音からすると、二人のようだ。 「きっと、私達の品定めに来た客を連れてきたんだわ・・・！」 悲壮な声で叫んだ娘は、十一歳の少女を連れ、壁の隅っこへと身を潜めた。 他の娘達も慌てて、顔を隠し始めた。 「・・・かわいそうに。いつも、こんな恐怖に怯えてるんだ・・・」 助け出してやりたい。 だが今のイルシアの力では、どうすることもできない。自分の身さえ危ういのだ。 錠の開く音がし、地下牢出入り口の扉が開かれた。 現れたのは、イルシア達を眠らせた男とルーエルだった。 「ルーエル！」 「あら、ガフスが掴まえた曲者っていうのは、姫の侍女と異国の軍人さんだったの」 「曲者はどっちだ！のうのうとカイル王子に近付いて、私達の事を探っていたくせに！」 感情的なファナとは対照的に、イルシアは押し黙っている。奴らがなぜ自分達を殺さず、生かしておいたのか。その腹を探るために。 「ふん、なんとでもおっしゃいなさいな。それより聞きたいことあるの」 「なんだ」 低い声でイルシアが唸った。 「像はどこなの」 「なんのことだ？」 鉄格子越しのルーエルを睨みつけたやった。 「かわいくない軍人だわね。あなた、イルシアとかって言ったけ？自分がどういう状況に置かれてるか、わかってないみたいね」 「わかってるさ。ただ、あんたの言ってる事が理解できないだけだ」 しらを切るイルシアに、ルーエルは苛立ち始めた。 しかし冷静さを欠かさないよう、威張ったように肩の髪を払い除けた。 「私の屋敷から宝物を運び出せば、あの像を盗んだ者が食いついてくると思ったの。念のため、ガフスに頼んでここを見張るようにしてたんだけど、正解だったみたいね。だけど、あなた方が犯人だったなんてね、やってくれるじゃない。私の屋敷の隠し倉庫に忍び込むことができるなんて」 「・・・」 ファナもイルシアも、どちらが盗んできたわけでもないので何とも返答できなかった。だがルーエルは黙秘しているのだと勘違いしたらしく、顔色が変わった。 「あの日、あなた達二人が私の家に来た日、竜の像がなくなったのよ！ここまで嗅ぎ付けて来たってことは、あれを盗んだのはあんた達なんでしょう！」 「ルーエル様、俺が吐かせてやりましょうか」 ガフスが楽しそうに言った。 拷問したくて、うずうずしているという様子だ。 「駄目よ、ここには大事な『客』も来るんだから。ま、いいわ。必然的に、この二人が盗んだ事には間違いないんだから。隠し場所を強引に聞こうと思ったけど、この二人の隠す所と言えば、あの御殿しかないでしょう。ガフス、忍び込んでおいで」 イルシアの心臓が高鳴った。 マリエに危険が及ぶかもしれない、と即座に悟った。 ルーエルはイルシアのその顔色を見逃さなかった。不敵な笑いを見せる。 「・・・そうねぇ、そこの軍人さんの妹さんが持っていそうね。御殿の見取り図に、その娘がいる部屋に印が付けてあるから、あとで取りに来てちょうだい。いい？娘の始末はガフスの好きにしていいわ。殺しても構わないから、必ず像を奪い返してくるのよ！」 わざとらしく、イルシアに聞こえるように言ってきた。 「貴様･･･」 イルシアは凄味のある視線をルーエルに射抜いた。 「フフフ。いいじゃない？どうせすぐ、あなたも妹さんのあとを追って死ねるんだから。明け方には、あなた達二人で心中してもらう予定だし」 「心中！？」 ファナが叫んだ。 「異国の軍人と恋に落ちた侍女。二人の恋はままならなくて、果てには死ぬ事を決意する・・・いいあらすじでしょう？湖に身投げって寸法よ」 |
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