| ～ 第１部 イルシアとマリエ ～ |
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第 ７ 話 |
悪夢は突然やって来る！（１） |
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『レイルズ王子の后になるのは誰か？』という噂は、相変わらず平行線のままで進展がない。 その通り、王家はいまだに、この件に関しては口を閉ざしたままだった。 エラマ＝カウンソンの愛娘マリエか、それとも社交界の花と言われるマドレデウス＝ノーガスが選ばれるのか。 王子がなかなか相手を決めない事に、やきもきしている街の人々の間では、もともとレイルズ王子自身がこの縁談に興味がないのではないか・・・という話が上っている。 実際、そうだったらどんなに良いかとイルシアは思うが、あくまで噂であるので安易に鵜呑みには出来ない。やはりエラマに、マリエとの関係を告白するべきだろう。 だが、エラマに告白したところでどうなるのか、イルシアにも分からなかった。后候補の辞退を国王に進言してくれれば万々歳なのだが、そうはいくまい。 一介の平民、加えて間者という〝影〟の存在である自分が、王子と天秤に掛けられれば当然、王子に傾く。イルシアの為に、エラマが娘の后候補を辞退するなど考えられない。 「だけど、巡邏出発も残すところあと三日だしな。今日こそ、エラマ様にお会いしなくちゃ・・・」 気合を入れてレイラン城に来てみたが、こういう時に限ってエラマは現れない。 衛兵に聞いてみると、どうやら重要な会議に出ているらしい。 昨夜、早馬に乗って城へやって来てからというもの、ずっと雲霧の室から出てこないと言う。 「なにか重大な事件があったのかな？」 イルシアは仕方なく、城の地下にある月影族の集落へ向かった。とりあえずそこへ行ってみれば、なにが起こったのか聞く事ができるかもしれない。 「・・・。それにしても、ついてないよな～・・・」 この調子では、マリエの話など出来なさそうだ。 その前に面会さえ出来ないだろう。 思い悩みながら歩いていると、なんとエラマに出くわした。その姿は幻かと一瞬思ったが、間違いなく彼だった。 「エラマ様！」 思わず彼の元へ駆け出す。 「雲霧の室にいらしたのでは？」 「ああ。今朝、雲霧の室から出てきてね。その後から今まで、長老の部屋にお邪魔していたんだ・・・」 エラマは力なく笑う。 その顔には疲労が感じられ、精悍ないつもの表情がくすんで見えた。一睡もしていない、という顔だった。 そんな忙しい時に、私情の話を持ち込むのは不謹慎かと思ったが、イルシアにしても時間がない。今を逃したら、いつエラマと会えるか分からない。 「あの・・・」と口火を切ったイルシアと同時に、エラマも「実は・・・」と呟いた。 二人はお互い、その先の言葉を呑み込む。 「・・・あ、エラマ様からお先にどうぞ」 「いやいや。君の話から聞こうじゃないか。なんの話だい？」 「はあ・・・。なんと言うか、一言では言えない事で・・・。大切な話というか、大事というか。ええと・・・やはり、エラマ様からどうぞ。私の話はきっと、長い話になりますから」 「私の方も、かなり重要で長い話になるのだが・・・」 「構いません」 「そうかい？では、お言葉に甘えて先に言わせてもらうよ。・・・実は、私は君を捜そうと、長老の部屋から出てきたばかりなのだよ」 「え・・・」 イルシアは首を傾げた。 以前も、イルシアに会うが為にこの地下へとやって来たエラマだが、あの時と違うのは、なにやら切羽詰った様子であることだ。 今回はなんの用だろうか。 「君にぜひ、頼みたい事があるんだ。雲霧の室で議題になっていた件の事でね・・・」 「そんな重要なことを私に？」 「ああ。とにかく、一緒に来てくれ」 足早に長老の部屋へと進むエラマの後を、怪訝そうについていくイルシアだった。
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