| ～ 第２部 あなたを守りたい ～ |
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第 13 話 |
不安になる（１） |
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イルシアは昨夜の賊の左腕に、剣を突き刺した。 あの手ごたえでは、かなりの大傷になっている筈だと踏んでいる。 となれば、腕を普通に動かす事はできなくなっているだろう。ルーエルが犯人であれば、左腕を不自由にしている筈である。 「あの女だという証拠はあるのか？」 ルーエルの屋敷へ案内してくれたファナが、イルシアに訊ねた。 「ないよ」 「ないって・・・」 きっぱりと断言され、ファナは呆れる。 「じゃあ、何か根拠でも？」 「ないね」 「・・・。あんたね、行き当たりばったりで、私に案内させたのか？！」 「行き当たりばったりってワケでもないけど、強いて言うなら、う～ん・・・野生の勘ってヤツ？」 益々、呆れるファナ。 だがイルシアにしてみれば、本当の事を言ったまでだ。但し、『野生』というのはぴよママのことだが。 「まったく。レイランの軍人て、この程度のものなのか」 「・・・」 俺は軍人じゃないからな・・・と、気まずく横目でファナを窺ったイルシアは、マリエが部屋にいないことに気が付いた。 「あれッ？どこ行ったんだ、あいつ」 留守番してろと言ったのだが、一緒に行くと聞かないので仕方なくルーエルの屋敷へ連れてきた。やっぱり連れてくるんじゃなかったと後悔する。 「庭で遊んでるんじゃないのか？さっき見かけた」 「ったく・・・」 心配で捜しに行こうと腰を浮かしたら、ルーエルが入室してきた。 「待たせてごめんなさい」 彼女は左手で髪をかきあげた。 それを見たファナは隣りのイルシアに、「ルーエルは犯人じゃない！」という非難の視線を送った。 （ハズレだったか） と心の内で、イルシアは舌打ちをする。 「武器倉庫に泥棒が侵入したみたいでね。何が盗まれたか調べていたものだから・・・」 だいぶ痛手を受けたのか、こめかみに手を当ててルーエルは消沈していた。 「そんな大変な時に、伺って申し訳ありませんでした」 「いいえ。もう構いませんのよ。屋敷内も落ち着きましたから。・・・あら、そちらは確か、リリアナ姫の侍女の方じゃありませんの？イルシア様と一緒に見えるなんて、なんのご用かしら？」 さすがにカイルも、ファナが間者だということをルーエルに教えていないようだ。一介の侍女としか見られていないファナは、敵対心隠さず彼女を睨みつけた。 「私はイルシア様の案内役として参りました。イルシア様があなたに用があるとおっしゃるので」 そう言ってフン、とそっぽを向いたが、ルーエルはもうファナなど眼中になく、イルシアに「なんでしょうか？」と訊ねている。 「あ・・・その、実は・・・」 ファナの奴、急にこっちに話を振りやがって・・・と心中、悪態をついていたイルシアはしばらく考えたあと、 「昨夜、私と妹が何者かの闇討ちにあいまして」 「まあ！恐ろしい」 ルーエルは長い睫毛の目を見開いた。 「良くない事はたて続けに起こるものですわね。でも、あの館は王子のお住まいというだけあって、警備は万全な筈ではありませんの？」 「ええ。我々もそう思っていましたが実際、襲われてしまいましたからね。そこで、自己防衛をしなくてはいけないと思いまして。武器商人のあなたからなら、良い武器が手に入るんじゃないかと思って、伺いに来た次第です」 そして上目遣いで、ルーエルを見据えた。 「人さらいに出くわしたり、物騒な事ばかりですから」 と、意味ありげにイルシアは口の端を上げた。
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