| ～ 第２部 あなたを守りたい ～ |
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第 11 話 |
借りは返すために（１） |
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ハーバノンの王都であるクレイズはかなり大きな街で、さすが大陸一の繁栄都市だと思わせる場所だった。 人口の多さもさることながら、住宅や商店が所狭しと建ち並んでいる。 イルシア達がそのクレイズに到着したのはちょうど太陽が高く上り、陽射しが強くなってきた頃。その光を避けるように、広場にある木々の下で休憩する事にした。木陰は涼しいので、スカリイは木にもたれ、座ったまま気持ち良さそうにうたた寝をしている。 「お疲れのようだな」 スカリイの様子を見て、寝そべっているシムが言った。 「歩きづめだったからなぁ」 馬で移動しているのだが、この暑さに馬もかなり体力を消耗してしまったので結局、馬上から降りての歩行の旅だったのである。この中では最高齢のスカリイが一番、疲れているに違いない。 イルシアとシムは、目覚めるまでしばらくスカリイをそっとしておく事にした。 「ここ数日、暑かったし、ばてるよな。俺たちも・・・」 今日も蒸しかえるように暑い。 膝を抱え、イルシアも疲れてぐったりしている。額の汗を袖で拭い去ってうつろなその顔を上げると、一人だけ元気に走り回っている少女が目に映った。 なぜかマリエだけは、今回の強行軍にめげなかった。 「あいつ、ちょっと前は体が弱かったくせに・・・」 初めて一緒に旅した頃は、体の具合が悪くなったりしてイルシアを困らせたりしたものだが、今回はほとんどない。今は弱いどころか、日なたで遊べるほど元気いっぱいである。 「免疫がついたんじゃないか？旅するようになって、体力もついたんだろ」 シムのその言葉に納得しながらイルシアは、小鳥とはしゃぎまわっているマリエを眩しそうに眺め、「ホントに十九歳か？あいつ・・・」と半ば呆れている。 「そう言えば」 と言うシムの声で、彼女から目をそらした。 「このあと、俺とスカリイ様は城のある方角に向かうけど、お前達はどうする？リリアナ姫がお住まいになってる御殿は、城の東にある丘の上だろ」 ハーバノン第二王子カイルは、城を出て近くに邸宅を築いていた。 当然、嫁いできたリリアナもそこに住んでいる。 カイルはれっきとした王子なのだから城を出なくても良いのだが、何でも彼は王族という格調ある枠にとらわれたくなくて城を出たらしい。 そういう噂をここの街人から何度か耳にした。 「リリアナ姫のところへ早速、行ってみるよ。シム達について行ってもすることないし。善は急げって言うしな」 「そうか。じゃ、ここでお別れか」 「ま、そっちはレイルズ王子とシャルライン皇女の縁談、首尾よくうまくやってくれよ」 「もちろん。とは言っても、俺は特にすることないんだけどさ。スカリイ様の護衛を任せられているだけだし。俺としては王子の縁談なんかより、イルシアとお嬢様を二人っきりにするのが心配なんだよな～」 「・・・・・・どういう意味だよ」 イルシアは不快な顔をした。 シムのいやらしい顔つきで、彼の言いたい事は大体予想はつくが。 「安心しろ。誓って俺は、巫女さんに手を出すつもりはない」 きっぱりとイルシアは断言しておいた。 野放しの男と行動する〝マリエお嬢様〟がシムは心配なのだと思ったのだが、彼は思いっきり首を横に振った。 「違う違う。その逆だって」 「逆ぅ？」 「そっ。イルシアがちゃんと、お嬢様に手を出すかどうかが心配なんだって」 「・・・・・・。あ、そう」 拍子抜けして、頭を垂れる。 「いいか？イルシア。前にも言ったが、この旅が絶好の機会なんだからな！」 「・・・そんなことで力説するなよ・・・」 「力いれたくなるさ。俺はな、お前の事が心配なんだ。頬にキスされたぐらいで喜んでるくらいだからさぁ、お前。ホッント、先が思いやられるよ」 「・・・」 遠い目で言うそのシムの言葉に、イルシアは眉をひそめた。 「・・・・・・。・・・・・・？」 なんのことだか思いつかない。 「・・・。・・・。・・・ああッ！！」 イルシアは大声を発し、シムを指差した。 突然、身に覚えのあることを思い出したのだ。 マリエが、痛くなくなるおまじないをしてくれた日のことを。 「お、お前っ！あの時、覗いてたのかよ！？」 「覗いてたんじゃない。＜見守って＞いたんだ」 いけしゃあしゃあと言うシム。 イルシアは顔を紅潮させて怒り出した。 「おんなじことだっ！」 「しかしー、そんなんじゃ、いつお嬢様と一線越えられるか分からないぞ」 「うるさいっ！」 更に顔を真っ赤にした。 「あれでも俺達にしてみれば、進歩したんだからな」 シムは飛び起きた。 「マジで？」 「悪いかよ・・・」 ふて腐れ、イルシアはそっぽを向いた。 あの日、マリエから初めてキスしてくれたのだ。 あの完全無欠の疎い彼女が。 だからあれは、マリエの著しい変化だったと思っている。・・・というか、そう思いたい。 「なあなあ。もしかして、口と口もまだとか？」 「・・・。シムね、俺の事なんかよりお前とルーカの事を心配しろよ」 半睨みしてやったら、シムの表情が変わった。 「・・・おい、イルシア。あれ、見てみろよ」 「話をそらすな」 「違うって。早く見ろって」 渋々、シムの視線を追った。 その先はマリエだった。 彼女が、見知らぬ背の高い男と向かい合っているのだ。 男のそばにはもう一人の男が控えていた。なにやら喋っている。 「誰だ、あいつら」 もしかしたら、マリエに呪術をかけたダンゼルかもしれないという不安が過ぎる。 「身なりがしっかりしているから、役人か貴族・・・といったところか？」 「確かに、呪術師には見えないな」 二人は用心に、自分の武器に手を掛ける。 しばらくすると、マリエがイルシア達の方を向き、その男に示すように指差してきた。 それに倣い、男はちらりとこちらを一瞥したあと、マリエに一言話し掛けて去っていった。 男達を見送り終えたマリエが、「ふぅ、暑いですねぇ」とイルシアの元へ戻ってきたので、イルシアは今の奴等はなんだったのか訊ねた。 「さっきの人ですか？たぶん、巡回している役人の方だと思います。ひとりでいると人さらいに遭うから気をつけなさい、と言われました。それで、ここにイルシアさん達がいるから大丈夫です、と教えたんですの」 「ふーん。そうか」 昼夜を問わず、人さらいが現れる物騒なこの国だ。見回りも当然、行われているだろう。 |
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