| 〜 第４部 いさよう月 〜 |
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第 20 話 |
絶体絶命（１） |
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アサエルはエラマを凝視した。 「マリエの居場所を探知して来てみれば、エラマまでいたとはな・・・。全ては、お前の仕業だったわけだ」 「今頃、気付いたか。貴様の野望が完全に固まらないうちに、実行する必要があったのだ。手遅れにならないうちに尻尾を掴もうと思ってな」 そう答えるエラマに向かって、アサエルは薄く笑んだ。 「ま、いいだろう。こちらとしても、邪魔者どもがここに集ってくれたおかげで、一日で掃除ができるという事だからな」 その口調にむっときたイルシアは、「それはこっちも同じだ！」と叫んでやった。今回のエラマの策略にしてみても、『黒い影』たちを一掃することにあったのだから。 アサエルの鋭い視線を受けたが、イルシアはあくまで余裕の笑みを見せる。ここで怖気づいたら負けだ。 「イルシア・・・か。捜したよ。よく、あの傷を負いながら逃げ切れたものだ」 「月の女神の加護を受けてね」 「ほう。しかし、今回はどうかな。女神の愛娘は、既に我が手中にある。魔法で眠ってもらっているが、女神はお前達に微笑んでくれるであろうか？」 「マリエを放せ！」 声の限り、エラマが叫ぶ。 「そうはいかない。マリエは光栄にも、魔王の花嫁になれるのだから」 「ふざけやがって！」 アサエルはエラマを一瞥してから、イルシアを睨む。 「特に邪魔なのが、貴様だ・・・」 憎しみとでもいうのか、それとも妬みなのだろうか。エラマに対してとはまた別の敵対心を、イルシアにむき出しにしてくる。恐ろしい視線だった。 マリエが魔王の花嫁になるのを拒否するのには、一番の理由は魔界を開放させないためだが、次なる理由は心に決めた男、イルシアがいるからである。 だからイルシアはアサエルにとって、最も邪魔な存在といえる。 「すぐに片付けてやる」 アサエルから衝撃波が放たれた。エラマとイルシアは足を地面に踏ん張りながら立ちこらえるが、次第に激しさが増してくる。絶えられなくなった二人は、後ろへ吹き飛ばされてしまった。 地面にしたたか背中を打って苦しんでいるイルシアに向けて、アサエルは手をかざす。 「まずは、お前からだ」 妖術によって作り出された火柱が、イルシアを襲う。 その寸前、エラマが影のように素早くイルシアの前に動いた。火柱は、エラマの魔力を帯びた剣でまっぷたつに切り裂かれた。 「エラマ様！」 「アサエルは私に任せなさい。イルシアはマリエを！」 「そうはさせない」 マリエの元へ走り出すイルシアを食い止めようと、アサエルは次なる妖術を完成させようとしていた。 「私が相手だ！」 雄叫びを上げ、エラマは真っ向からアサエルに剣先を向けて駆け出した。 それはあまりにも、無防備で無茶な攻撃と判断できた。 相手は既に妖術を放てる状態なのだ。アサエルにたどり着く前にやられてしまうだろう。 「加護も受けられやしないのに。そんなに死にたいか！」 標的をイルシアからエラマに変え、アサエルは掌をエラマに向ける。 「ルーナの力は、ここにもある！」 叫ぶエラマの剣が突然、淡く光りだした。 「月神の剣をみくびるなよ！」 「何っ！？」 月神の剣はアサエルの電撃を光の粒に変え、弾き飛ばした。 ひどく美しいその光の群れをかいくぐり、エラマはアサエルの脇腹を刺した。
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