| 〜 第４部 いさよう月 〜 |
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第 18 話 |
すべては策略（４） |
| マリエは首を傾げる。 「言いにくいんだが、お前に渡した『語らずの書』のことだ」 「あれなら、アサエルの手に渡ってしまいましたが・・・」 ばつが悪そうにイルシアが言った。 あれは自分のせいだと思っている。マリエをハズリンクに引き渡しさえしなければ、押収されることもなかった。 だがエラマは首を横に振った。 「構わない。あれは、偽造したものだから」 「ぎ、偽造！？」 イルシアは椅子から転げ落ちそうになった。 あんなに貴重なものとして扱ってきた本が、偽物だったとは！ 「そ、それでは、本物は・・・？」 「既に処分した。もう、この世に存在しない」 「まあ・・・」 マリエは少し驚いただけだった。 間延びした声は、イルシアとは対照的に、いつもの通りなんら気にもしていない。 魔法の呪縛を解けば、字が浮き出てくると信じていたあの本は、、まさしくただの羊皮紙の集まりだったのだ。そしてタイトルどおり、何も語ってはくれない内容のない本・・・。 『語らずの書』を守るために、危険な目にあって身を挺（てい）してきたイルシアとしては、釈然としなかった。この事実に理不尽さがふつふつと湧き上がる。 「もっと早く、処分するべきだったのかもしれない。あの術は、人を不幸にするだけだから」 そのエラマの呟きに、イルシアはそれはゲシュクの事だと気付いた。 アサエルを陥れるための研究が、自分の部下までも、欲深い罪人にしてしまったのだ。 「父様とこうして無事、再会できたんですもの。結果よければ、すべてよしですわ。ねえ、イルシアさん」 明るい眼差しのマリエとは違い、イルシアはそうもいかなかった。 腹立たしさも加えて、いくら国家のためとはいえ、実の娘を犠牲にしようとまでしたエラマに反感を抱いた。 しかし、それを公然と口にすることはできない。 マリエにならいざ知らず、エラマに口出しなどできなかった。 「・・・それで、これからどうするんです？俺とお嬢様はアサエルから逃れるために、もっと遠くに逃げる予定だったんですが、アサエル討伐を知った今、その作戦に協力せざるをえないでしょう」 「そう言ってくれると思ったよ」 エラマは不敵に笑った。戦に行く前の余裕の笑みだ。 「アサエルは、必ずここに来る」 「えっ！？なぜ、言い切れるんですか」 「あの宰相には、同じ志を持っているバイブが協力している。あの魔法使いは、マリエの居場所を探り当てることができるからな」 確かに以前、バイブがガースッドの森でマリエを生け捕ろうとしたことがあった。瞬間移動もできるようだから、マリエを探すことぐらい簡単なのかもしれない。 「あの女は、マリエがルーナの加護を強く受けていることを充分、身に染みて知っている。居場所がわかっても、滅多なことでは手出しはしない。だが、アサエルは来る。あいつは切り札があるからな」 「切り札・・・」 「アサエルは、魔界王と通じ合っている・・・ということよ」 そう言うルーカは身震いした。 「ここで奴を迎え撃つ。それが、この策略の結末だ」 「・・・」 淡々と話すエラマには、勝機が感じられた。 しかしイルシアにはとてもじゃないが、そんな気分にはなれなかった。実際、アサエルの妖術にかかり、死にかけたのだ。あの時の畏怖の念は、いまだに取り除かれていない。 眉根を寄せ、暗い顔のイルシアの横で、マリエもまた、血の気の引いた元気のない表情をしていた。 ルーカがそれに気付く。 「お嬢様、どうかなさいました？顔色が優れませんが・・・」 「あ・・・いいえ、別に・・・」 なんでもないんです、と首を振っているが、イルシアから見ても彼女は無理をしているようだった。 「・・・っ！」 「お嬢様！？」 突然、マリエは吐き気をもよおしたのか口に手を当て、部屋から走り出ていった。 「あたし、見てくる」 レビイがすかさず後を追う。 「長旅でお疲れじゃないのか？おいイルシア、ちゃんとお嬢様を労（いた）わっていたのか？」 などとシムに言われ、イルシアは「当たり前だろ！」と仏頂面になる。 こっちの方が労わって欲しかったくらいなのだ。エラマの手前、そんな事は言えないが。 「大丈夫なのかな・・・随分、気持ち悪そうだったけど・・・」 一応、心配しておくイルシア。 「病気とかじゃなきゃ、いいんだけど。最近、流行り病が多いからねー」 「まさか・・・」 ルーカの言葉に、イルシアの顔がそれこそ青褪める。 皆の心配をよそに案外、楽天的な面持ちをしているのがエラマだった。こういう呑気なところは、やはりマリエの父だと思う。 「そんな心配することないよ、イルシア。あの子の母親も確か、ああいう時があったもんだ。んー？あれは、いつだったかな。・・・そうそう、思い出した。マリエを身ごもった時だ」 「あのう・・・。それは、悪阻（つわり）なのでは？」 ルーカの言葉に全員の動きが一瞬、硬直する。 そして一斉にイルシアを見た。 |
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