| 〜 第２部 真 実 〜 |
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第 ９ 話 |
巫女の危機（４） |
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「お前は、闇に目覚めなければならない」 唐突にアサエルはマリエの肘を掴み、引き寄せた。 「そのためには魔界王を受け入れるんだ。そうすれば光の血は消える。封印は解かれ、潜在している闇の血が蘇る。そして扉が開く！！」 マリエを凝視するその瞳は、尋常ではなかった。 既に魔界王がアサエルに降臨しているようで、声音がおかしくなっている。 そのとてつもない力で腕を掴まれているマリエは、小さな悲鳴を上げた。そしてベッドまで連れて行かれ、押し倒される。 抵抗できずにもがいているだけのマリエを見て、アサエルは口の端を上げた。 「俺は魔界王の身代わりだが、お前に愛情がないわけじゃない。初めて出会ったときから、ずっと想っていたというのは嘘ではない」 魔界王に完全に体を支配されているわけではないらしい。 半分は自らの意識が残っているようだ。しかし彼のその告白は、マリエへの愛情はないように思われた。彼は魔界への憧憬に、擬似的にマリエに夢中になっているだけなのだ。 そう思ったマリエは苦悶に満ちていた。 「だから、俺を受け入れろ」 マリエの上に重い体がのしかかってくる。 いつものマリエだったら、魔物使いの能力を利用して魔物を呼び、彼らの助けを借りるところだが、あいにくまともに食事をしていないため力不足になっていたし、疲労気味だったため、どうにも自己防衛できなかった。 アサエルは彼女の衣服に手を掛けて、引き破った。 熱い息が肌に触れかかる。どうしようもない嫌悪感が、マリエを満たした。 「母様！！」 マリエは叫んだ。 助けを求めて。 すると同時に、光が彼女を囲むように現れた。それにアサエルは弾き飛ばされ、床に叩きつけられた。 ベッドの上のマリエは光の球体に包まれている。 アサエルが触れようとすると、拒むかのように衝撃波が生じた。手出しができない状態だ。 アサエルは舌打ちをする。 「これが、ルーナの加護・・・か」 マリエは上体だけを起こす。恐怖でまだ体が震えていたが、気をしっかり持ってアサエルを正視した。 「なぜ・・・。どうしてこんなことを？魔界を理想郷とするからには、よっぽどの理由があるのでしょうが、わたくしには分かりません」 アサエルは床に腰を下ろしたまま、マリエを見上げた。先程の衝撃でか、元のアサエルに戻っていた。 「俺は人間などに生まれ、悔やんでいるのだ。愚かで、そして弱い。そんな貧弱な生き物は、この世に必要ない。ただの飾りだ。強い者だけが生き残る魔界こそ、発展を遂げる世界だと思っている」 彼は立ち上がり、扉の方へ足を向けた。 そして再びマリエに振り返った。 「この世界を創造し直すために、俺は自ら支配する国を創設したい。いずれ人間界が魔界に支配された時、レイランも他の国々も滅びるだろう。だが、俺の国は存在する。魔界王の下にね」 その国を造る為には、資金が必要である。もともと、出所の分からない金銭を膨大な額で動かす男だ。 そんなことは朝飯前なのだろう。 だが彼は首を振った。 「さすがに国を造るだけの金を動かすほど、俺は用意周到じゃない。忘れてはいないか？『語らずの書』を。錬金術で腐るほど手に入れられる」 「今回、わたくしを捕まえた事は、あなたにとって一石二鳥だったわけですね・・・」 魔界を開き、そして国家を造る資金までマリエは調達してくれたのだから。 「あの本には、封印が施されているようだが。まあ、まだ時間はある。・・・充分にね」 意味ありげに凝視するアサエルから視線をそらせず、マリエは怯えたまま彼を見据えた。 「君は必ず、魔界王の花嫁となる。必ず・・・」 その瞳は真剣だった。 明らかに冗談ではなく、彼は実現のものにしようとしている。 アサエルはマリエへの一層の思いを残し、部屋から姿を消した。
第９話 [完] |
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