| 〜 第２部 真 実 〜 |
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第 10 話 |
強気でいこう！（４） |
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「思いもよらなかったな。お前がこんな真似をするとは」 そう言って、ハズリンクが装備していた弓の矢を飛ばしてきた。 それはイルシアにではなく、斜め後ろの柱に突き刺さった。 脅しだ。 しかしイルシアは怯まない。ただ、なぜ宰相アサエルがここにいるのか、という疑問だけを抱いていた。 「イルシア。分かってるのか？こんなことをして、ただで済むと思っているのか？」 「思っちゃいないさ。裏切り行為だからな」 鼻でせせら笑うイルシア。 「お前は愚かだ。月影に追われるだけでなく、魔王まで敵に回したのだからな・・・」 「マオウ？」 それまで冷ややかに眺めていたアサエルが、「まあ、そこまで話を飛躍しなくても良いだろう」と、前に進み出てきた。 そして唐突に、「貴様は、マリエを愛しているのか？」とイルシアに問い掛けてきた。 彼女の名を気安く呼ぶアサエルにふてぶてしい奴・・・と思ったが、それより先にその質問に対して狼狽する。 だいたい、こんな時にこんなところで告白している場合じゃない。しかも本人がいる前で。 「こいつは・・・犯罪人なんかじゃない。無実だ。そう思ったから連れ戻しに来た」 「それならば安心しろ。マリエは裁きにかけられない。彼女の身柄はこの俺が保護する」 「・・・どうしてだ」 この男の言っている意図がつかめないイルシアは、上目遣いで彼を睨みつけた。 「俺はマリエを愛している、ということだよ」 なんのためらいもなく言うアサエルに、イルシアはしばらく何も言えなくなったが、我に返った。 「ハッ？！冗談だろ。こんな呑気娘を？」 さも女を見る目がないとでも言うように、嘲り笑いながら背中に隠れ潜んでいるマリエに振り返った。 その時、上着から垣間見えた乱れた衣服に、嫌な直感が走る。 （まさか・・・アサエルに？） てっきりナーグスかと思っていた。 その疑問は肯定だと、マリエの蒼白な顔を見て確信した。 彼女の瞳はアサエルを恐れている。 「嘘は言わぬ。誰が大切な女を死刑に追いやるものか。だから、安心して託すがいい」 「断る！！」 部屋に響き渡るほどきっぱりと言い放った。 「あんたに渡しても、彼女が幸せになれるとは思えない」 「ほう。面白いことを言う。では、何が何でも拒否するということか」 「ああ。そうだな」 アサエルの顔色が変わった。 無表情で冷たさを放つ、見下した視線。 「・・・貴様は奪ってはいけないものを奪った。マリエは魔王の花嫁となる。それを邪魔する者は、魔王の怒りに触れるのだ」 アサエルの目が怪しく光ったと思うと、突然イルシアは、上から重い圧迫感を受けた。その衝撃は床にまで伝わり、イルシアの足元中心にひび割れていく。 「ううっ・・・ああ！」 目に見えない重圧に耐えられなくなり、イルシアは自らの両肩を抱き、うずくまった。 「イっ、イルシアさん！！」 マリエが近付こうとした一方で、アサエルはとどめをさそうと不敵な笑みを浮かべていた。 「死ね」 新たな衝撃波がイルシアを襲った。 それは彼の体を無残にも切り刻む、真空の刃だった。 マリエは衣服や頬にイルシアの血の洗礼を受け、驚愕する。 「きゃ・・・きゃああああ！」 絶叫。 と、同時に無数の魔物が現れる。屋敷中を埋め尽くすほど。 自制心をなくしたために、魔物使いの能力が開放されたのだ。マリエにとって、イルシアが血まみれになり傷つき倒れる姿は、それほどまでに衝撃すぎるものだった。 一方、アサエルとハズリンクは、魔物達に揉みくちゃにされている上、八方ふさがりになって身動きできない。勿論、マリエ達に手出しもできない状態だ。 アサエルは舌打ちをして悔しがるが、壁を打ち破ったり、柱を倒したりと手荒い魔物達に閉口するしかなかった。人に危害を加えないものの、下手に反撃すれば自らの命の保証はない。 「・・・俺は諦めない。必ずお前を俺の手中に入れるぞ」 虎に似た魔物の背に傷ついたイルシアを乗せ、屋敷から逃げ出すマリエに呟いた。 |
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